日本体力医学会

日本体力医学会における事業遂行に係る利益相反(COI)に関する指針

趣旨

日本体力医学会は,昭和24年(1949年)に設立され,体力ならびにスポーツ医科学に関する研究の進歩,発展を促進し,研究の連絡協力を図るとともに,その成果の活用によって社会的貢献をはかることを目的としている.現会員数は約5千名を有し,体力医学の領域では日本医学会のもとにあるわが国最大の学術団体である.事業内容としては,学術講演会などの開催,二種類の機関誌(体力科学,The Journal of Physical Fitness and Sports Medicine,以下JPFSMと略),名簿の刊行,日本体力医学会が関係する国際学会の行う事業への参加,協力,体力医学の振興ならびに,普及,啓発,その他,目的を達成するために必要な事業などを行う.
 日本体力医学会が主催する学術講演会や刊行物などで発表される研究成果には,体力医学研究が数多く含まれており,その推進には産学連携活動が大きな基盤となっている.体力医学研究における成果を社会に適切に還元していくことは,国民の健康・体力の保持・増進に極めて重要であると同時に,健康寿命の延伸に大きな意義を持つ.
 我が国では,科学技術創造立国を目指して1995年に科学技術基本法を制定した.1996年には「科学技術基本計画」が策定され,国家戦略として産学の連携活動が強化されてきた.産学連携は,「真理を探求する研究と高等教育を行う」公的な存在である大学や研究機関と「営利を追求する」企業という目的や役割を異にする組織の連携活動であることから,活動を行うに当たり企業等との関係で職員個人が有する利益や責任と学術機関としての責任とが衝突する状態が必然的・不可避的に発生する.こうした状態が「利益相反(conflict of interest : COI)」と解釈される.利益相反状態を学術機関・団体が組織として適切に管理していくことが,重要な課題となっている.体力医学研究は,対象・被験者として健常人などの参加が不可欠であり,倫理規定に守られ,対象・被験者の協力によって行われた研究は,真に広く社会に貢献されねばならない.
 近年,多くの学術団体は研究の公正・公平さの維持,学会発表での透明性,かつ社会的信頼性を保持しつつ産学連携による研究の適切な推進を図るために,研究に関わる利益相反指針を策定している.適切なCOIマネージメントによって正当な研究成果を社会へ還元し,かつ社会に対する説明責任を果たすため,日本体力医学会は,会員などに日本体力医学会事業での発表などで,利益相反状態にある企業・法人組織との経済的な関係を一定要件のもとに開示させることなど,日本体力医学会共通の利益相反指針を策定する.

  1. 目的
  2. ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則については,「ヘルシンキ宣言」や「臨床研究の倫理指針(厚生労働省告示第255号,2008年度改訂)」および「疫学研究に関する倫理指針(文部科学省,厚生労働省,2008年度改訂)」において述べられている.被験者の人権・生命を守り,安全に実施することに格別な配慮が求められる.

     日本体力医学会は,その活動において社会的責任と高度な倫理性が要求されていることに鑑み,「日本体力医学会における事業遂行に係る利益相反(COI)に関する指針」(以下,本指針と略)を策定する.本指針の目的は,日本体力医学会が会員などの利益相反状態を適切に管理することにより,研究成果の発表やそれらの普及・啓発などの活動を中立性と公明性を維持した状態で適正に推進させ,社会的責務を果たすことにある.本指針は,会員などに対して利益相反についての基本的な考えを示し,日本体力医学会の会員などが各種事業に参加し発表する場合,自らの利益相反状態を自己申告によって適切に開示し,本指針を遵守することを求める.

  3. 対象者
  4. 利益相反状態が生じる可能性がある以下の対象者に対し,本指針を適用する.

    • 1)日本体力医学会会員
    • 2)日本体力医学会で発表する者
    • 3)日本体力医学会の役員(理事長,理事,監事),学術講演会担当責任者(会長など),各種委員会の委員長,特定の委員会(学術集会運営委員会,学会誌編集委員会,倫理・医療安全委員会,利益相反委員会など)委員,暫定的な作業部会(小委員会,ワーキンググループなど)の委員
    • 4)(1)~(3)の対象者の配偶者,一親等内などの親族,または収入・財産を共有する者
    • 5)体力科学に論文を投稿する者
    • 6)「JPFSM」に論文を投稿する者
  5. 対象となる活動
  6. 日本体力医学会が行うすべての事業活動に対して本指針を適用する.

    • 1)学術講演会などの開催
    • 2)二種類の機関誌(体力科学,JPFSM),名簿の刊行
    • 3)日本体力医学会が関係する国際学会の行う事業への参加,協力
    • 4)体力医学の振興ならびに,普及,啓発
    • 5)その他目的を達成するために必要な事業
  7. 利益相反委員会の設立
  8. 本指針対象者の利益相反状態の適切な管理と違反者への対応を行うために利益相反委員会を設立する.利益相反委員会は,本指針と規定の定めるところにより活動する.

  9. 開示・公開すべき事項
  10. 対象者は,個人における以下の(1)~(8)の事項で,規定で定める基準を超える場合には,その正確な状況を日本体力医学会理事長に申告するものとする.個人が組織の代表研究者として受け取るものも含む.申告された内容の具体的な開示・公開の方法については別に規定で定める.

    • 1)企業・法人組織,営利を目的とする団体の役員,顧問職
    • 2)株の保有

    • 3)企業・法人組織,営利を目的とする団体からの特許権使用料
    • 4)企業・法人組織,営利を目的とする団体から,会議の出席(発表)に対し,研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当(講演料など)
    • 5)企業・法人組織,営利を目的とする団体がパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料
    • 6)企業・法人組織,営利を目的とする団体が提供する研究費(受託研究,共同研究,寄付金など)
    • 7)企業・法人組織,営利を目的とする団体がスポンサーとなる寄付講座
    • 8)その他の報酬(研究とは直接無関係な,旅行,贈答品など)
  11. 利益相反状態の回避
    1. 対象者のすべてが回避すべきこと
    2. 体力医学研究の結果の公表やガイドラインの策定などは,純粋に科学的な根拠と判断,あるいは公共の利益に基づいて行われるべきである.日本体力医学会の会員は,体力医学研究の結果とその解釈といった公表内容や,体力医学研究での科学的な根拠に基づくガイドライン・マニュアルなどの作成について,その体力医学研究の資金提供者・企業の恣意的な意図に影響されてはならない.また,資金提供者・企業などの影響を避けられないような契約を締結してはならない

    3. 研究の責任者が回避すべきこと
    4. 体力医学研究の計画・実施に決定権を持つ総括責任者は,次の項目に関して重大な利益相反状態にない者が選出されるべきであり,また選出後もその状態を維持すべきである.

    • 1)研究を依頼する企業の株の保有
    • 2)研究の結果から得られる製品・技術の特許料・特許権の獲得
    • 3)研究を依頼する企業や営利を目的とした団体の役員,理事,顧問など(無償の科学的な顧問は除く)

    (1)~(3)に該当する研究者であっても,当該研究を計画・実行するうえで必要不可欠の人材であり,かつ当該研究が,国際的に極めて重要な意義をもつような場合には,利益相反委員会で審議し,理事会の承認が得られれば,当該研究の責任者に就任することができる.この場合,体力医学研究が適正になされたのかの事後的検証を利益相反委員会が行うものとする.

  12. 実施方法
    1. 会員の責務
    2. 会員は研究成果を学術講演などで発表する場合,当該研究実施に関わる利益相反状態を適切に開示する義務を負うものとする.開示については,規定に従い所定の書式にて行う.研究などの発表との関係で,本指針に反すると指摘された場合には,利益相反委員会にて審議し,理事会に上申する.

    3. 役員などの責務
    4. 日本体力医学会の役員(理事長,理事,監事),大会長,各種委員会委員長は,日本体力医学会に関わるすべての事業活動に対して重要な役割と責務を担っており,当該事業に関わる利益相反状態については,就任した時点で所定の書式に従い自己申告を行う義務を負うものとする.就任後,新たに利益相反状態が発生した場合には規定に従い,修正申告を行うものとする.

    5. 利益相反委員会の役割
    6. 利益相反委員会は,日本体力医学会が行うすべての事業において,重大な利益相反状態が会員に生じた場合,あるいは,利益相反の自己申告が不適切で疑義があると指摘された場合,当該会員の利益相反状態を確認し,管理するために,ヒアリングなどの調査を行い,その内容を理事長に答申する.

    7. 理事会の役割
    8. 理事会は,役員などが日本体力医学会の事業を遂行する上で,重大な利益相反状態が生じた場合,あるいは利益相反の自己申告が不適切であると認めた場合,利益相反委員会に諮問し,答申に基づいて改善処置などを指示することができる.

    9. 大会長の役割
    10. 大会長は,学会で成果が発表される場合,その実施が本指針に沿ったものであることを検証し,本指針に反する演題については発表を差し止めるなどの処置を講ずることができる.この場合には,速やかに発表予定者に理由を付してその旨を通知する.これらの処置の際に大会長は利益相反委員会に諮問し,その答申に基づいて改善処置などを指示することができる.

    11. 編集委員会の役割
    12. 編集委員会は,日本体力医学会機関誌などの刊行物で研究成果が発表される場合,その実施が本指針に沿ったものであることを検証し,会員以外の投稿者も含め,本指針に反する場合には掲載を差し止めるなどの処置を講ずることができる.この場合,速やかに当該論文投稿者に理由を付してその旨を通知する.本指針に違反していたことが当該論文掲載後に判明した場合は,当該刊行物などに編集委員長名でその由を公知することができる.これらの処置の際に編集委員長は利益相反委員会に諮問し,その答申に基づいて改善処置などを指示することができる.

    13. その他の委員長・委員の役割
    14. その他の委員長・委員は,それぞれが関与する学会事業に関して,その実施が本指針に沿ったものであることを検証し,本指針に反する事態が生じた場合には,速やかに事態の改善策を検討する.これらの対処については利益相反委員会に諮問し,答申に基づいて理事会は改善処置などを指示することができる.

     
  13. 指針違反者に対する処置と説明責任
    1. 指針違反者に対する処置
    2. 日本体力医学会理事会は,別に定める規定により,本指針に違反する行為に関して審議する権限を有しており,倫理委員会に諮問し,答申を得た上で,理事会で審議した結果,重大な指針違反があると判断した場合には,その違反の程度に応じて一定期間,次の処置のすべてまたは一部を講ずることができる.

      • 1)日本体力医学会が開催するすべての学術講演会での発表禁止
      • 2)日本体力医学会の刊行物への論文掲載禁止
      • 3)日本体力医学会の学術講演会の会長就任禁止
      • 4)日本体力医学会の理事会,委員会,作業部会への参加禁止
      • 5)日本体力医学会の評議員の解任,あるいは評議員になることの禁止
      • 6)日本体力医学会会員の資格停止,除名,あるいは入会の禁止
    3. 不服の申立
    4. 前記,実施方法3,4,5,6,7号により改善の指示や差し止め処置を受けた者は,日本体力医学会に対し,不服申立をすることができる.日本体力医学会は,これを受理した場合,速やかに利益相反委員会において再審議し,理事会の協議を経て,その結果を不服申立者に通知する.

    5. 説明責任
    6. 日本体力医学会は,自らが関与する場所で発表された体力医学研究の成果について,重大な本指針の違反があると判断した場合は,直ちに理事会の協議を経て社会に対する説明責任を果たさねばならない.

  14. 規定の制定
  15. 日本体力医学会は,本指針を運用するために必要な規定を制定することができる.

  16. 指針の改正
  17. 本指針は,社会的影響や産学連携に関する法令の改正などから,個々の事例によって一部に変更が必要となることが予測される.定期的に見直しを行い,改正することができる.

  18. 施行日
  19. 本指針は2013年7月19日より施行する.

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